電話






清麿は静か過ぎる自分の家で溜め息をついた。

五月蝿いと思う事もあるガッシュの声が聞こえなくなって2日だ。

そう、たった2日なんだ。どうと言う事は無いはずだ。それなのにこの虚しさは何なのだろう?


ガッシュは清麿の母親である華と華の友達と一緒に温泉旅行に出かけてしまった。3泊4日の予定で。

清麿は丁度期末テスト期間中で一緒には行けなかったが、ひさしぶりにガッシュと離れてのびのび出来ると、内心喜んでいたのだ。


なのにたった2日ガッシュが居ないだけでもう何かが足りないと思い続けてる。

テストは無事に終わり、学校も休みに入った。終業式が終われば本格的に冬休みに入るというのに清麿の気持ちは沈んだままだ。


(オレの家ってこんなに広かったっけ?……)


外に出れば気分も変わるだろうと1時間ぐらいアテも無くブラブラしてみたが、気分が変わるどころかこのモチノキ町に居ないガッシュを探してキョロキョロするばかりだった。


余計にガッシュの事を考えてしまうので散歩はやめて家に帰った。

部屋に戻ってベッドに大の字に寝転ぶ。

こうも静かで独りきりで居るとなるべく考えないようにしている事をどうしても考えてしまう。

ガッシュが消えた後の事を……。



魔本を燃やされるか、王になるか。いずれにしろ別れは必ずやって来る。

その後、この家で清麿は過ごさねばならない。ガッシュの居ない日々を、今のように。



急に不安になって隠してある魔本を引っ張り出す。

ガッシュは旅行に行ってるだけなのに。

行き先も、帰ってくる日も知っているのに不安でしかたなかった。



清麿は魔本を抱きしめてベッドに横になる。

腕の中にすっぽり納まる魔本はガッシュではないけれど、それしかガッシュの代わりになるような物はなかった。

しばらくそうしていたが、不安はなかなか拭えなかった。

そのうち何故何の連絡もないのかと苛立ってきた。


(電話くらいかけてきてもいいのに…)


置いてきぼりをくらって拗ねてる子供のようだと思いながら、それでも魔本をかかえて少しでも不安を取り除こうとしていた。



しばらくすると階下で電話のベルが鳴り出した。

清麿は飛び起きて下に降りると、受話器を取るなり「ガッシュ!」と言った。

何故かは分からないがそうだと思った。

受話器の向こうで息を呑むのが聞こえた。ほどなくして

「清麿?」と今一番聞きたかったガッシュの声が流れてきた。

清麿はそれまで感じていた意味のない不安が一度に吹き飛ぶ気がした。

逆にガッシュの方が不安そうな声で「どうしたのだ?清麿」と問いかけてきた。

「どうしたって…別に何もないぜ?お前こそどうしたんだよ?」



清麿はガッシュの声が聞けて嬉しくてしょうがないのだが、その気持ちは声には含ませずに聞き返した。

ガッシュは暫く返事をしなかった。ややあって

「清麿が呼んでるような気がしたから電話したのだ」と言った。


「オレが?」


確かにガッシュの事を考えてはいたが、こんなにタイミングよく通じるものかな?と思った。

ふと腕に魔本を抱いたままだったのに気がついた。

(そういえばこの魔本を通じて持ち主の言葉や気持ちが魔物に伝わるんだった!)


清麿は急いで電話を置いてある棚の下の段に魔本を押し込んだ。

子供のように寂しがったり、拗ねたり、ガッシュの声が聞けて嬉しくてたまらないという気持ちまでもがガッシュに伝わっているのが恥ずかしく思えたからだ。



話題をそらそうと旅行を楽しんでいるかどうか聞いた。

すぐに元気な返事が返ってきて、面白い物を見たとか綺麗な景色が一杯だとか、鹿とも友達になったと嬉しそうな報告が山ほどあった。

(やっぱ五月蝿ぇ!)と勝手な事を考えてた清麿の耳にガッシュの声が響かなくなった。

急に黙りこくってしまったガッシュに清麿は驚いたが「ガッシュ?…どうした?」と優しく聞き返した。

ガッシュはなかなか返事をしなかった。



清麿がもう一度話しかけようとした時返事が返ってきた。

「楽しいけど…寂しいのだ。…清麿………」

最後の方はやっと聞こえるくらいの小さな声だったが、ガッシュの気持ちはキチンと伝わった。

瞬間清麿の全身に電気が走った。

「待ってろ!!今すぐ行く!!」

清麿はガッシュの返事も待たずに受話器を置くと、魔本を掴んでバッグに詰め手早く仕度をしてガッシュの居る所へ向かった。



姿は見えていなくても声だけで伝わる事は沢山ある。

ガッシュが帰るまで待てそうにない。ガッシュの気持ちを聞いたらなおさらだ。

旅行先で泊まれなかったらガッシュと一緒に帰ろうと思いながら、清麿は駅に向かった。







END


作者様コメント:電話→遠く→旅行先…単純明快な話ですな…。




戻る