赤い魔本



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清麿はガッシュを家へ連れ帰った。
清麿の母である華はガッシュの怪我を見て驚き、病院に連れていこうと言ったが清麿は大丈夫だからと無理矢理説き伏せて、怪我の手当てをするために部屋へ連れて行った。

気絶するほどのダメージなら病院に連れて行くべきなのだが、検査をされてガッシュが人間じゃないと分かったら大騒ぎになるかもしれない。
ガッシュの為に面倒な事になるのは避けるべきだと思った。

華にガッシュの身体を拭くタオルや救急箱を用意してもらい、血と泥で汚れたガッシュの服を洗濯してもらっている間に手当てを急いだ。


幸いというか…血は派手に出ているものの傷はそんなに深くなくて、包帯を少しキツク巻いておけば大丈夫そうだ。
骨も折れているようでもないし、眠り続けるガッシュの顔は穏やかで苦痛を感じているようではないし、呼吸も規則正しい。
見た目は細いが丈夫な体のつくりをしているのかもしれないと清麿はようやく安堵の溜め息をついた。

血も赤いし、特に人間と変わらない姿だが、頭に怪我をしていないか調べていた時に突起物を見つけた。

髪の毛に隠れるくらい小さなものだが年輪のようなものがあり、皮膚とは違って固い。
頭の2箇所に同じ形で尖っているそれはどう見ても角だ。

(頭蓋骨が変形して皮膚の上に突き出たのだとしても、こんな均等に並んでて年輪つきなんてありえないしな…)

清麿はまだショックの残る心でぼんやり考えていた。

(人間じゃないなんて…ウソだろ?)
ガッシュが口から電撃を出したのは事実だ。そしてガッシュが気絶する前に言った言葉。

「そんな…清麿が……」

(あれはオレが赤い本の持ち主だったのかという意味だろう)

清麿は手当てを終えてから赤い本を開いてみた。
わけの分からない読めない文字がびっしりと並んでいる。一部分だけ色が変わっていて読むことが出来た。

(ザケル…か…)

あの氷を吐く子供と一緒に居た大人も本を開いて呪文のような言葉を言っていた。
清麿はあの時「ふざけるな!」と言った。それがたまたま呪文と同じ言葉が含まれていただけで、ガッシュの口から電撃が出た。あの子供と同じように。

あの子供を思い出すと強い憎しみの心が甦った。それに反応して赤い本も輝く。
清麿が驚いて本から手を放すと次第に光は消えていった。清麿の心が落ち着いて、考える力が戻ってくると本に手を置き心に強い感情を滾らせてみた。
するとまた本が光りはじめた。

(そうか、この本は持ち主の心に反応するのか。そして呪文を唱えるとガッシュから力が出るのか)

ガッシュの様子を見に来た華に本を見せて、呪文を唱えてくれと頼んだ。
もしも持ち主以外の人に本が読めて、悪用されると困るからだ。心の力の事は言わずに、読めるかどうか試したかった。

「?呪文?なにを言ってるの?読めない文字ばかりじゃない」
清麿には色の変わってる部分がハッキリと見えているのに華には見えないらしい。
(どうやら持ち主以外読めないらしいな)

清麿は少し安心した。
しかし、この本の管理をしっかりしていないとガッシュが消えてしまう恐れがあるのでまだ油断は出来ないと思った。ガッシュは本を燃やしたがっている。それは阻止しないといけない。
そのためにはどうすればいいのかと清麿が考えている間に華はガッシュの容態を確かめ「ホントに病院はいいの?」と清麿に念を押した。
清麿はガッシュが人間じゃない事を話すべきかどうか迷った。すると

「大丈夫なのだ、母上殿。心配させてゴメンなのだ」
ベッドの上に半身を起こしながらガッシュが答えた。

「どこかひどく痛む所は無い?」
心配そうに聞く華に笑顔で答えるガッシュ。清麿も傍によって「まだ横になっていた方がいい」と促した。
頷いて大人しく横になるガッシュに華も漸く笑顔になる。

「ゆっくり休んでてねガッシュ君。今日は泊まっていきなさい。夕御飯うんと美味しいもの作るから!」
「ありがとうなのだ、母上殿」
ガッシュの様子に華も安心してキッチンへ向かった。



華が部屋から出て行っても清麿とガッシュは無言でいた。

「怪我は…本当に大した事ないんだな?」

清麿が漸く口を開いた。

「ウヌ。明日になれば全部治っているのだ」
大した回復力だ。やはり人間とはちがうんだなと清麿が心の中で感心していると

「私の本を返してくれぬか?」
と聞いてきた。清麿は暫く本の表紙を眺めて
「その前に…説明してくれるか?お前のこと、どうしてここに居るのかということ、そしてこれからどうするつもりなのかを」

清麿はじっとガッシュを見つめる。もう誤魔化さないでほしいと思いながら。
ガッシュは一度清麿を見て、それから目を閉じた。
清麿の目には真実を求める光があった。誤魔化しても無駄な事はガッシュにも分かった。

目を開け、清麿の方は見ないようにしてガッシュは話始めた。

人間ではない事、魔界と呼ばれている所から来た魔物である事、その世界での王を決めるために選ばれた魔界の100人の子供達が人間界で人間のパートナーと共に戦い、王の座を目指しているという事。

清麿はガッシュが話している間決して口を挟まず、疑問があっても声を出さなかったが、ガッシュが王の座などに興味はなく、誰かに早く本を燃やしてもらって魔界に帰るつもりなのだと言ったのを聞いて愕然とした。
(ガッシュがいなくなる!?この世界から消えてしまう事を望んでいる…!)

凄いショックを感じた清麿は、ガッシュが人間じゃなかったなどというのは大した問題じゃない事に気づいた。
ガッシュにいなくなってほしくなどない!だから本を燃やそうとするガッシュを止めたかったのだ。止める手段が戦いに巻き込まれる結果になったとしても構わない。
清麿は決意した。

腹もたっていた。何も言わずに消えてしまおうとしていたガッシュに対してだ。
ガッシュの恩返しはすんだかもしれない。だがそれは父である清太郎に対してだけだ。
清麿はこの大きすぎる借りを返すにはガッシュを王にするしかないと思った。
この優しすぎる魔物を「腰抜け」よばわりするやつを出さないために。故郷に帰ってからガッシュが辛い思いをしないよう守りたかった。けれどそれはガッシュ自身も望まなければ意味がない。


どんなに本を燃やしてくれと頼んでも聞き入れてもらえず、攻撃ばかりされたというガッシュの言葉に清麿は
「あたりまえだ!あの子供も言ってただろ?腰抜けって。オレもそう思うね」
「清麿…?」
ガッシュは清麿の冷たい言葉に身体を起こして清麿を見た。清麿は怒っていた。

「お前はそれでいいかもしれないがな、此処はオレ達人間の住む世界なんだよ!それを戦いでメチャクチャにするって事だろ!?それを止める事もせずにただ帰ろうとしてるなんて自分の事しか考えられないのかよ!!」
「き、清麿…私は…そんな…」

困惑しているガッシュを見ながら清麿は心の中でガッシュに謝った。
キツイ言い方だと思う。けれどガッシュは他人の為に己を捨てる事の出来る魔物だとよく知っていたから「腰抜けなんて言われたままで帰っていいのか!?」などという言葉ではひき止めるのは難しい。ならばガッシュの優しさにつけこむしかない。

「ああ、お前はそれでいいよな。魔界に帰って平和に暮らせるからな。でもオレ達はどうなる?魔物同士の戦いに巻き込まれて傷つかないと言えるか?誰一人死んだりしないと言えるのか?お前はそれを見ぬフリをしていればいいかもしれないがオレは嫌だ!!」
「…………」
ガッシュは俯いて清麿の言う事に考えを巡らせている。清麿の言う事は尤もだった。けれど此処に残るという事は清麿を戦いに巻き込むという事に他ならない。それはガッシュにとってとても嫌な事だ。
このまま帰れば清麿達のことが心配でたまらないだろう。
だが魔界でも戦う事から逃げ続け、弱虫と言われ続けた自分に何が出来るというのだろう?

(私は…どうすればよいのだ?)

答えることも出来ず苦しむガッシュを見かねて清麿が助け舟を出す。

「オレに協力しろ!ガッシュ!!力を合わせてお前以外の魔物を魔界へ帰してやろうぜ!!」
ガッシュは驚いて清麿を見た。
「し、しかし、それでは清麿がもっと危険な目に会うということなのだぞ!」
清麿はそれはもう充分承知しているとガッシュに告げた。
「オレだって戦いに巻き込まれるなんてゴメンだ。だがお前という魔物がいて、オレがそのパートナーとして選ばれてこの世界を守れるかもしれないのに黙って見ているだけなんてもっとゴメンだ!!!!!」
「清麿…」
清麿の決意が固いのを感じ取ってガッシュにはもう何も言えなかった。

「お前が王を目指すつもりがないのならそれでもいい。でもオレはお前に王になってもらってこんな馬鹿げた戦いを完全に止めて欲しいんだ!頼むガッシュ!戦ってくれ!!」


ガッシュは随分悩んだ。王になりたいとは思わない。なれるとも思わないが、確かにこの戦いが人間界まで巻き添えにするのは納得がいかなかった。
それに清麿が戦いに出なくても巻き込まれて怪我をする可能性はゼロではない。それだけ魔物の力は強い。ましてやこの戦いに反対する魔物より積極的に参加しようとする魔物が多いのは事実だ。
(私の力だけで止められるものではない。…でも清麿が一緒に戦ってくれるのなら…)

「私に…出来るだろうか?清麿」
まだ不安そうに問うガッシュだったが、
「ああ!出来るさ!!独りじゃないんだ!頑張ろうぜ、ガッシュ!!」
清麿が力強く肯定した事でガッシュに少し笑顔が戻った。清麿も微笑み返すと拳骨をガッシュに向けて差し出す。
ガッシュも握りしめた拳を清麿に向かって差し出し、清麿の拳と軽く合わせた。

共に戦うという決意と、これからずっと一緒に居られるという喜びを噛みしめながら。


                                      



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END                    05  08  11


此処までお付き合い下さってありがとうございます!
残念ながら諸事情でサイトは閉じましたが、小説預かり
引受人の方がいらしてくださって私は果報者です!それに
この後のバカ騒ぎ的な続きを見ることなく美しく終われる
のはある意味良かったかもしれないと思います(笑)


   

イラスト担当の奈乃です。えっと、今回のガッシュさん着用の
Tシャツは清麿のなので若干おっきい、というのを表現したかった
のですが…あまりうまくできませんでしたね…。

あと、できればラストシーンのイラもかきたかったのですが、断念。
(あまりにも時間かかりすぎてしまったので…)
もしかしたら、そのうち追加される可能性もあったりなかったり…。

(2005.10.19 追記 ↑でいっていたラストシーン
やっと描けましたー。長いことあいたので微妙に
絵がかわってしまいました(苦笑)が、ガッシュさん
の笑顔を描けてよかったですー。)

これにて東鏡四郎様作「金色の太陽」「赤い魔本」は完結です。
この素敵な小説の預かりを快く了承してくださった東鏡四郎様に
感謝ですー。人様の小説に絵をつけるというドキドキする
体験もさせていただいたことにもvvv(
そして、できれば続編もあると嬉しいなぁ。