赤い魔本



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(少しでも遠くへ…!人のいない所へ行かねば!!)

大きな岩のたくさんある場所へと急ぐガッシュ。
清麿の部屋から聞いた音は考えている事とは違うのかもしれない。けれど用心に越した事はないとガッシュは思った。

(清麿や母上殿が巻き込まれるなどあってはならぬ!)

それは清麿たちに限った事ではないけれど、あんなにも優しい人達が巻き込まれて傷つくのを見たくなかった。

大きな岩のたくさんある場所…清麿の家から西にあるその場所は採石場だった。
夏場で陽が落ちるきるまでにはまだ間があり、辺りは明るいままだったが、働く人達の帰宅時間は過ぎている頃だったので採石場に人は居なかった。
ガッシュは努めて人の居ない場所を探し、できる限り身を潜めていた。イギリスに居た時も日本に来てからもそうしていた。

尤も気配を読める物には通用しなかったが、ガッシュに出来る事はそれくらいしかなかった。
そしてガッシュの心配していた通りに気配の読める物が近づいていた。





清麿は急いだ。ガッシュの向かった方向は西。
誰かに狙われているのだとしたら助けなければと思った。

西には遊園地と採石場がある。
人ごみに紛れてしまえば狙われにくくなるが、誰かが巻き込まれる恐れのある場所にガッシュが向かう筈はないと清麿は採石場へ急いだ。
採石場へ近づくにつれ大きな音がするようになった。
近くの遊園地のアトラクションの音かとも思ったが、そういうものとも違う気がする。

音のする方へ向かうと途中、氷の塊が地面に突き刺さっていた。

(氷!?何でこんな所に?)
その氷はつららのように鋭く尖っていて、つららとは比べ物にならないくらい大きかった。
ここに近づくにつれて聞こえていた奇妙な音は、この氷の塊が地面に突き刺さる時に出た音らしい。

辺りを見回してみると、その氷の塊はいたるところに刺さっていた。地面から突き出たようなのもある。
音といい、この状況といい、異常気象のせいとは言い難くて清麿は首をひねった。

それに地面から突き出たような形の、いくつかの氷の先には血のような跡と黒い服の切れ端が刺さっていた。
それの意味する処が分かって清麿は息を呑む。

(ガッシュ!!)
清麿はもうわき目もふらず、音のする方向へ急いだ。




見つけたガッシュはボロボロで、いつかの屋上で殴られていた時よりひどい有様だった。
岩場を背にして立っていて、苦しそうに呼吸をしている。
ガッシュに対峙するように立っている2人連れは大人と小さな子供で、大人の方は本を開いて持っていた。
その本が光ったかと思うと大人は何か呪文のような言葉を叫ぶ。すると子供の口から氷の塊が飛び出してガッシュに向かって飛んで行く。ガッシュはかろうじてかわしていた。


清麿は予想もしていなかった事態にその場に立ち尽くす。

(な…なんだこれは?何が起こっているんだ!?)
目の前の事が理解できず、動けずにいる間にガッシュは次々と繰り出される氷の攻撃をかわし続けた。知らず清麿の居る方向に逃げてしまっていたガッシュは、清麿の姿を認めて驚きのあまり足を止めてしまった。

そこへ容赦なく降り注ぐ氷の雨にガッシュは悲鳴を上げて倒れた。
「ガッシュ!!」
清麿はようやく動けるようになってガッシュに駆け寄る。
抱き起こすとガッシュの腕から何かが滑り出して地面に落ちた。赤い表紙の本だった。

「ガッシュ!しっかりしろ、ガッシュ!!」
必死で呼びかけるとガッシュは目を開けた。
「清麿…どうしてここにいるのだ?…速く、逃げるのだ!!清麿!」

そう言うガッシュの声に力は無い。ダメージが大きいからだ。
傷ついたガッシュを置いて逃げられるものか!と、抱く腕に力を込める清麿。
とにかくこの状況を整理したかった。

氷の塊を吐く子供が人間じゃないのは分かる。しかし高性能のロボットというものでもなさそうだ。

大人の持ってる本もよく見れば、ガッシュが落とした本と表紙の色が違うだけで同じものに見えた。
清麿は2人連れを睨みつけて言った。

「お前達は何者だ!?何故こんな事をするんだ!!」
「貴様こそなんだ?本の持ち主じゃないのか?」
答えたのは大人の方だ。
(本の…持ち主?)
それはガッシュだろう?と清麿は思ったが、口には出さなかった。わざわざそう聞くからには別の意味があると思ったからだ。

「どうやら何も知らないみたいだな」
答えない清麿にそう思った子供が言った。続けてその子供が何か言おうとしたのを遮ったのはガッシュだった。
「清麿は関係ないのだ!それより早く私の本を燃やして欲しいのだ!!ずっと頼んでおるのに何故そうしてはくれぬのだ!?」
そう言って落ちていたままの赤い本を持ち上げて、2人連れの方に差し出す。


子供の方がそれを見てやれやれといった表情になる。
「お前本当に選ばれたやつなのか?腰抜けめ!!」

心底侮蔑の目でガッシュを見るその子供に対して清麿はムッとした。何が何だか分からない状況だが、ガッシュを馬鹿にされるのには腹がたった。

清麿はガッシュの持っている本を取り上げると
「あんなやつに頼まなくてもオレが燃やしてやるよ!ガッシュ、家へ帰ろう!」
そういってガッシュを抱き上げた。ガッシュは清麿が思っているよりもずっと軽かった。
ひどく傷ついてるガッシュに早く手当てをしてやりたかった清麿は、ガッシュが何と言おうと連れ帰るつもりだった。
事情は家に帰って手当てを終えてからでも聞けばいい。


ガッシュは驚いて清麿を見る。

それを見ていた2人連れは馬鹿にしたように笑った。
「そりゃあいい!本はそいつに燃やしてもらえよ!オレはお前をいたぶりつくしてから殺してやるから!!」

清麿もガッシュも驚いて子供を見る。
(…なんて言ったあいつ…子供のくせに…ガッシュを殺す…だと!?)

「お前みたいな腰抜けは王を決める戦いにはいらない!死ねばいい!!ガッシュを置いて行け、人間!!さっさとその本を持って消えろ!!」
子供とは思えない悪意に満ちた歪んだ表情。殺すと言ったのは冗談じゃなく本気で思っているというのが分かった清麿は怒りが吹き上げた。手にした赤い本が光り輝く。

「ふざけるなぁ!!」

そう清麿が叫んだ瞬間、ガッシュの口が大きく開いてまばゆい光と轟音とともに雷がほとばしる。それは清麿の怒りの大きさと同じくらい強力な力だった。

子供を吹き飛ばし、後ろにいた大人の持っている本を直撃した。
倒れた大人の手からこぼれ落ちた本が勢いよく燃え始める。

それを見た子供はボロボロになった身体でも必死で本に駆け寄り、火を消そうと躍起になった。
手で叩いて消そうとしたり土をかけたりしていたが、本の火は消えない。
本が勢いよく燃えれば燃えるほど、子供の姿が段々薄れ始めた。
そして本が燃え尽きるのと同時に「チクショウ!!」という声を残して消えてしまった。

後に残った大人は呆然と子供が居た場所を眺めて何も言えなくなっていた。

清麿も何も言えなかった。さっきまでの怒りは退いて子供の消えた辺りを見て、手に持っている本を見て、最後にガッシュを見た。

「そんな…清麿が……」

ガッシュは悲しそうにそう呟くと、気を失って清麿の腕に身体を預けた。
清麿は信じられなかった。だが認めないわけにはいかなかった。


ガッシュが人間ではない事を…。

                                      




05 08 09


あと1個で終わりです〜。


   

すっかりイメージを壊してしまったような気がするイラスト担当の
奈乃です。東さん宅の、二人のあのなんともいえない可愛さは
表現できませんでした…(汗)でもお姫様抱っこかけて嬉しかったですv