金色の太陽

(ああ、また今日もつまらない朝が来た。)
天才的な頭脳の持ち主、しかしまだ14歳の少年高嶺清麿はベッドの中で目覚めるなりそう思った。
今日もいつも通りサボリを決め込んで寝返りをうち、深く毛布に潜り込む。
もうすぐ母親である華が起こしに来るからだ。あんなくだらない連中のいる学校に無理矢理行かせようと、毎日毎日熱心に起こしに来る。
たとえ学校が休みの日だろうと、規則正しい生活をしろと口うるさい。
だがら清麿は自分の部屋からめったに出ることはない。華と顔をあわせればうるさく言われるからだ。
暫くして華が起こしに来た。
部屋の鍵はいつもかけてあるので入って来られることはないが、しつこくドアを叩かれわめかれ続けるとうるさくて仕方ない。
それに、うるさい母親のせいで規則正しい生活とやらが身についてしまっている清麿は朝食を食べないと落ち着かない。
仕方なく朝飯を食いに階下へ降りると華の説教が始まる。
いい加減うんざりして逃れるようにしぶしぶ学校に向かっても、登校はせずどこかで時間を潰す。
居場所のない学校になど行けるわけがない。
頭がいいというだけで虐めてくる連中の気がしれない。
あいつらがそれを持ち得ないからといってなぜそれがオレのせいでもあるかのように言うのか分からない。
くだらない連中、くだらないクラスメート、くだらない教師達、くだらない学校。
とりとめもなく思いながら出来るだけ人目につかないようにと、橋の下の傾斜のきつい土手に寝転ぶ。
学校の事等考えたくもないので目を閉じ、昨日読んだ論文を頭の中で反芻していた。
「おぬしが高嶺清麿か?」
ふいに上からかけられた声に驚く。隠れるようにしてここに居るのになぜ分かったのだろう?
橋の下から身を乗り出すようにして声のした方を見上げると一人の人物が欄干にもたれかかったままこちらを見ている。
9月も半ばのまだ暑い最中に真っ黒い服を着て、明るい金色の髪が風にゆらめいている様はどこか不思議な雰囲気をかもし出していた。
この辺りで見かけた事のない顔だ。それに、肩のあたりで乱雑に切られたような髪や線の細いその姿は男か女かも区別しにくかった。
学校をサボっている手前、補導員かもしれないと少しギクリとしたが清麿と年齢は離れていないようだ。
「誰だ?お前…」
清麿の言葉に人違いはしてないのだと判断したらしいその人物は、軽やかに欄干を乗り越えると清麿の目の前に飛び降りてきた。
胸元に大きな白いリボンが飾られ、そのリボンの中心に金色の石がついてる黒いマントのような服。裾が足首まで隠してるのは見てるだけで暑苦しい。
だが、着てる本人はこの日差しの中で汗ひとつかかずに涼しげな笑顔を浮かべている。
「私はガッシュ・ベル。清麿、おぬしを助けに来たのだ」
「は?」
思いがけない言葉に目が点になる。
そんな格好してるから暑さで頭をやられたのでは?大丈夫かこいつ。
それとも、新手の詐欺師か何かか?誘拐しといて身代金が目的とかじゃないだろうな!と思いはしたが、ガッシュの目は人を騙そうとする者の目ではない。
「どういう意味だ!?」
少なくとも助けられなきゃならないような覚えはない。
「私はおぬしの父上、高嶺清太郎殿に頼まれてここに来たのだ。清麿、さぁ学校へ行こうぞ!
その言葉に続けてガッシュは手を差しのべる。
土手に座り込んだままの清麿を立ち上がらせようとしたのだ。
「!!!!!!!!!!!!」
清麿は驚く。
イギリスの大学で教授として働く父親は、たまに家に帰って来て登校拒否の清麿を心配して色々と話しをして聞かせようとしているのだが、清麿にはただの説教にしか聞こえない。
めったに帰ってこないくせに父親風ふかすな!と清麿はいつも思っていた。
(今度はこいつを手先に使ってきたのか!)
清麿は敵意をむき出しにして差し出されたガッシュの手を乱暴に払いのけた。
ガッシュが助けると言った言葉は清麿の不登校を止めさせるという意味だからだ。
「誰が行くかあんな所へ!!」
ガッシュはそんな清麿の態度に別に怒ったふうでもなく、清麿の学生服を鷲掴みにして軽々と持ち上げた。
プロレス技のバックブリーカー一歩手前のように静止した状態でガッシュの頭の真上に持ち上げられてしまった。
「!??!?!?!?!?」
細く見えるガッシュの思わぬ怪力に何が起こっているのか理解出来ない清麿は固まったままガッシュによって学校へと運ばれていく。
(何だ!?何だ!???一体何が起こってるんだ!?!?!?)
あんなにも嫌っていた学校に運ばれているのだというのに清麿の思考はぐるぐると空回りし、丁度休み時間だった学校の中をあっけにとられたような生徒達に見送られながら、清麿の教室の清麿の席までノンストップで進んでいく。
「着いたのだ清麿。さ、頑張って勉強するのだ!」
一仕事終えたとばかりにさっそうと帰って行くガッシュの背を見送る余裕もない清麿はまだ固まっていた。
最後まで書けるかなーというのが今の素直な感想。
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