金色の太陽




教室にまで運ばれてしまっては観念して授業を受けるしかない清麿だったが、クラスメイトの囁き声はイヤでも聞こえてくる。
主に清麿を教室に置いたらさっさと出て行ったガッシュの事と、久しぶりに学校に出てきた清麿への厭らしい陰口だったが、清麿は聞こえないフリをした。

こんなくだらない連中しかいない所にわざわざ悪口を聞かされるために来たわけじゃない。休み時間になったらさっさと帰ろうとカバンの中身は出さずに机の上に置いたままでいた。
そんな清麿に教師も何も言わず、帰るつもりならそれもよしと思っているようだった。
教師までそんな態度をとるから、清麿の気持ちはますます沈むばかりだった。



ようやくチャイムが鳴って清麿は安堵の溜め息をつく。帰ろうと席を立つ清麿に後ろから声をかけてくる者がいた。

「た…高嶺君、おはよう。」

声の主は水野鈴芽という名のクラスメイトだった。

おかっぱに切りそろえた髪をヘアバンドで止めている。気の弱そうな外見に似合わず、嫌われ者の清麿にも分け隔てなく接するために、クラスでも浮いた存在だ。

振り返った清麿は鈴芽をちらっと見ただけで返事もせず、カバンを担いで教室を出て行こうとした。

「高嶺君!帰っちゃうの?せっかく来たんだからもう少しいようよ」

清麿は内心オレなんかに構うな!と思いながら無視して出て行こうとする。

嫌われ者の清麿に構うせいで鈴芽もクラスメイトには無視されがちなのだ。

清麿の心情を知らない鈴芽は必死で引き止めようとする。

鈴芽にとって清麿は特別な人で、密かに想いを寄せていたから少しでも長く一緒に居たいと思うのは当然だった。

清麿にとってそれはありがた迷惑だったが、どんなにクラスメイトから疎まれようと清麿の味方でいてくれるのは嬉しかった。
だから鈴芽まで嫌われないようにここに居るわけにはいかなかった。

(ガッシュとか言ったな。余計な事しやがって!)


そんな二人の様子を見ていた一部のクラスメイトが一斉に「帰れ!帰れ!!」と騒ぐ。
鈴芽は何か反論していたようだが、その声も聞こえなくなるぐらいの大声が教室に響いた。

「何故そんな事を言うのだ!清麿は何も悪い事はしておらぬでは無いか!!」
清麿が出て行こうとした扉とは違う扉の方からガッシュが、教室で帰れコールをしていた生徒に向かって言ったのだった。
あれだけ騒いでいた生徒達も驚いたのか固まっている。

ガッシュがまだ学校に居た事に驚いたのは清麿も同じだった。
教室や廊下で話しをしていた生徒も注目している。

「清麿はここで皆と一緒に勉強したり遊んだりしたいのだ。なのになぜそのような冷たい事を言うのだ!?」

ガッシュの質問に生徒達は気まずそうにあさっての方向を見る。
だが、一人だけガッシュを睨みつける生徒がいた。
「高嶺が俺たちと一緒に勉強したいだと!?笑わせるな!そいつは俺たちを見下して優越感に浸りたいだけさ!」

わざわざ清麿の方を見ながら言うその生徒の言葉に清麿も身を硬くする。

「優越感?」

ガッシュは言葉の意味がよく飲み込めなくて聞き返した。


「そうさ!高嶺は自分以外の人間はクズだと思ってるんだ!ちょっと頭がいいからってそれを自慢するためだけに学校に来てる嫌味なやつさ!
この学校の誰もそいつに来て欲しいなんて思ってやしない!誰もだ!!」

はき捨てるように言う生徒をガッシュはじっと見つめた。

暫くして口を開いたガッシュの言葉は誰も予想出来なかった。

「スゴイのだ…お主」


清麿の悪口を言ったその生徒も、固唾をのんで見ていた生徒も、清麿でさえもガッシュの言葉に一瞬思考が止まる。

「この学校には沢山の人が居るのに全てに聞いて回ったのか?凄過ぎるのだ」

次の瞬間、地響きをたてて校舎が揺れた。
一斉に倒れた生徒達を眺めて「どうしたのだ?」とガッシュが辺りをきょときょとと見回す。
どうにか立っていたのは白くなった清麿と、何が起こったのかよくわかってなかった鈴芽だけだった。

悪口を言った生徒がどうにか正気を取り戻してわめく。

「アホか!!そんなのいちいち聞いて回らなくても解るんだよ!!そいつに来て欲しくないって事くらいなァ!!!!」

「そうなのか?」

まだ半信半疑な表情のガッシュは生徒達一人一人を見回しながら聞いていく。
「お主たちも清麿に来て欲しくないと思っておるのか?」

しかし、ガッシュと目が合った生徒は慌てて顔を伏せるか逸らすなどして答えはしない。

ヒソヒソ声で何か話している生徒に「ハッキリ言うのだ!」と声をかけてもそのとたん口を噤むなどして明確な返事は返ってこなかった。


悪口を言った生徒は「てめぇら!さっきまでの勢いはどうした!!」と周りを見回すが誰も答えはしない。

「お主だけが思っているのではないのか?」

たたみかけるようなガッシュの言葉に、もう睨むしか出来ないその生徒は立ち上がると教室を足音高く出て行った。

ガッシュは戸口に立ったままの清麿を見て言った。

「良かったな、清麿。皆が来て欲しくないと思っているわけではなさそうなのだ。帰る必要などない。堂々と此処に居れば良いのだ」

ニッコリ笑って言うガッシュの声の後から聞こえよがしに誰かが「保護者付きで大層なご身分だよな」と言う。
清麿はとたんに恥ずかしくなってガッシュを睨むと

「余計な事をするな!!」と叫んで教室を出て行った。

どんなに連れ戻されても絶対に帰ると決意したような清麿の後姿に、ガッシュも鈴芽も声をかけにくくて、ただ見送った。

(何なんだ、何なんだあいつは!!チクショウ!!!)

清麿は恥ずかしくて、いらだたしくて怒っていた。
ますます学校での虐めの種を増やされたような気さえしていた。

そして「来て欲しくなんかない!」という言葉が鋭い棘となって清麿の心を傷つけて行った。
何故そんな事を言われなくてはならないんだ!悔しくてたまらない。涙がにじみ出る。
あんなくだらないやつらに何か言われたくらいで泣かなきゃいけないのも悔しかった。


(なんでオレばっかりこんな目に会うんだ!何故!!)

こうして学生服を着て町を彷徨えば、こんな時間に何をしてるんだという目で見られる。
家に帰ればお袋がうるさいし、学校には最初から居場所など無い。




清麿はどこへ行けばいいのか判らなくなって空を見上げた。





to be…   05 /05/ 10

大人同士ならどうなるかなー?と思って書き始めただけだけど…どうなるかなぁ…(弱気)