金色の太陽




屋上にたどり着いた清麿が目にしたのは、男子生徒数人に囲まれるようにしながら、清麿が学校に来なくていいと言っていた生徒がガッシュを殴る場面だった。
遠巻きに見ている生徒も何人か居たが誰も止めようとせず、先生に言いに走り去る様な生徒も居なかった。ヒソヒソと小声で囁きあいながら成り行きを見ているだけだ。嘲笑ともとれるような笑顔を浮かべながら。



殴られてるガッシュも、ガッシュを殴る生徒も口にしているのは清麿の事で、清麿が学校に居る事について争ってるらしかった。
ガッシュはどんなに殴られても清麿を弁護し、殴り返そうとはしていない。
生徒の方はムキになったようにガッシュを殴るのでガッシュはボロボロになっていく。
(バカ!なんで殴り返さない!!オレを持ち上げて運べるくらい力はあるのに!!)
心の中でそう思ってはみたが、ガッシュがそんな事に力を使うような者ではないことも承知していた。
だから清麿は叫んだ。

「止めろ!!」

清麿に気づいた生徒は道を開けるように脇に退いたので清麿は出来た道を真っ直ぐに進んだ。
ガッシュを囲んでいた数人の男子生徒も少し下がって清麿を通す。
その男子生徒達の顔は清麿が来た事に驚いているようだったが、清麿は無視した。


「もう止めろ!!お前が殴りたいのはオレの方だろう?だったらオレを殴ればいい!」
ガッシュを殴り続けていた生徒が怒りに満ちた目を清麿に向ける。
胸倉を掴んで吊り下げるように持っていたガッシュを清麿に向かって投げつける。

清麿はどうにか受けとめて、少し離れた場所へガッシュを支えながら運んだ。気絶はしてないようで、ガッシュはヨロヨロしながらも自分の足で歩いた。フェンスにそっとガッシュの背をもたせかけ顔を覗き込むと、ガッシュは嬉しそうに笑った。

「来てくれたのだな、清麿。頑張れるのだな?」
「…ああ!」

清麿にはガッシュの言いたいことが分かっていた。
今此処で見ないフリをしたり、逃げたりしたらこの学校には居られなくなる。
多分これからどこへ行こうとも逃げる癖ばかりついて一生そのままだろう。

今は逃げずに立ち向かうときだ。
ガッシュを心配して此処に来た。
ガッシュが殴られてるのを見て助けたくて前に出た。
逃げずに立ち向かうために。


ガッシュを殴っていた生徒の前に立つと、清麿より頭一つ大きいその生徒がニヤリと笑う。
周りにいる生徒達も口笛を吹いたり野次をとばしたりして清麿を馬鹿にしていた。

清麿は勉強が出来るだけの不登校続きの根性なしというレッテルが貼られていたし、相手の生徒は校内でカツアゲを平気で行うような不良だったからだ。
誰の目にも勝敗は明らかだった。

最初の拳は上手くかわせたが、清麿の拳も避けられてしまった。
ケンカなれしていない清麿には連続で繰り出される拳は避けようがなく、サンドバックのように殴られ続けたが一歩も引かずに殴り返す。
しかし当たっても大したダメージは入ってないようだった。それでもあきらめなかった。

「てめぇなんざここに居なくていいんだ!!うっとおしいんだよ!」
「オレもこの学校の生徒だ!ここに居て何が悪い!!」
「頭がいいからって馬鹿にしやがって!」
「バカになんかしてない!!勝手に決め付けるな!!」

殴りあいながら言い争う清麿を見て、はやしたてていた生徒が段々言葉を失っていく。最後にはシンと静まって清麿の言葉と戦いぶりを静かに観戦していた。


清麿が圧倒的に不利だと誰もが思う中で、清麿は殴り返し続けた。
殴るだけじゃなくひっかいたり、足を掴んで転ばせたり、体当たりしたりととてもカッコイイ闘い方とは言い難かったが少しも怯まず退かなかった。
相手も一歩も引く気のない清麿の様子に焦りが見え始めて、攻撃を仕掛けたとき大降りになった。
清麿も相手の拳に慣れてきたらしく、攻撃をよけつつ一歩踏み出してカウンターをお見舞いした。
丁度腰の回転の力も上手く拳に乗って相手の顔面にヒットした。
生徒は鼻血を拭きながらもんどりうって倒れそのまま気絶したようだった。

清麿も相当なダメージを受けていたので、相手が動かなくなるのを見届けたと同時に後ろにゆっくりと倒れた。

しかし頭がコンクリートで出来た床に打ち付けられる前に、清麿の戦いぶりを見ているだけだったガッシュが駆け寄ってきて支えてくれた。

「よくやったのだ!清麿!!よく頑張ったのだ!!」
「はは…まさか勝てるとは思わなかった…」
ガッシュだけに聞こえるように小さく呟く。


ふらつきながら立ち上がろうとする清麿をガッシュが支えようとすると、近くにいた男子生徒が清麿を支えるのを手伝ってくれた。
「お前根性あるじゃねぇか!見直したぜ!」
驚いた清麿がその生徒の顔を見た。
同じクラスの生徒だった。しかし彼も清麿を虐めていた一人だった。
突然のクラスメイトの変化に清麿はどう振舞っていいか判らず、ぽかんとしていた。

「早く保健室へ行って手当てした方がいいぜ。ヒーローが顔腫らしてたらカッコつかないしな!」
そう言ってニカッと笑う。ガッシュも同意したので清麿は二人に支えられながら保健室へ向かう事にした。

(ヒーローって何だ?誰が?)
清麿にはまだ事態が良く飲み込めなかった。そんな清麿に拍手が送られた。
首を回して見ると遠巻きに様子を眺めていただけの、清麿を良く思ってなかった生徒ばかりだったのにまた驚いた。
この屋上で一部始終を見ていた生徒は清麿の言葉と行動でようやく清麿を認めてくれたのだった。
確かにやっつけた相手は不良だけど、清麿にしてみたら自分が此処に居るための戦いでヒーローとは違うのではないかと思いもしたが、皆が褒めてくれているのでなんだか恥ずかしいような誇らしいような気持ちで一杯だった。

ようやく屋上の騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた先生によってその場は解散になったが、これだけの騒ぎを起こしたわけだし、暴力を振るったのだから清麿の謹慎処分は免れないだろうと思われた。

だが、清麿が保健室で手当てを受けてる間に事態は急変したようっだった。

屋上での出来事を見ていた生徒によって素早く校内中に話は広まり、殴り倒した相手にカツアゲされていたり、暴力を振るわれていた生徒からの嘆願や清麿の味方をする生徒が多かった事などから清麿を処分したくても出来なくなっていた。

結局、3日ばかりの謹慎処分を言い渡されたが内申書に残らない形ばかりの処分だぞ、と教えてくれたのは普段から清麿には冷たい態度で接していた筈の担任だった。
清麿の行動は教師にまで影響が出たらしかった。
清麿は混乱しつつも、先生達やクラスメート達の雰囲気が温かくなったことを素直に喜んだ。


手当てが終わり、校長室で話を聞いた後教室に戻ったわけだが、そこでもまた一騒ぎあった。
不良をやっつけた清麿の話が大きくなってヒーロー扱いだった。
どんなにカッコよくやっつけたかとか、怖くなかったのかとか女生徒の殆んどに質問攻めに合い、清麿は困ってしまった。

「怪我人だから休ませてやれ!」の先生の一括に助けられて学校を早退する事になった清麿だったが、本当は放課後まで居たかった。ヒーロー扱いには困ったが、生徒達とこんなに話したのは久しぶりだったのでもっと喋りたかったからだ。

だが、ガッシュの怪我の具合も心配だったし殴られた痕がひどく腫れてきて、心配したクラスメイトに促されて帰る事にした。。

「また月曜日に会いましょう!!」
と質問攻めの中心核だった女生徒に見送られて、これはまた月曜日に質問攻めに合うのかもしれないと清麿は一瞬引きつりながら手を振り、治療が済んでいたガッシュと共に学校を後にした。

(また会いましょうか…)
清麿はとても嬉しかった。学校に居ていいと言ってもらったに等しい言葉だった。
また学校に行ける。清麿の望んでいた友達のいる普通の学生生活が送れるんだ。

こんなにも満ち足りた気分で学校を後にした事はなかった。
清麿は自分の力で自分の居場所を勝ち取れた事を喜び、ずっと支えて応援してくれていたガッシュや華に感謝した。

帰り際ガッシュを公園へ寄って行こうと誘い、食べる機会のなかった弁当をガッシュに渡すととても喜んだ。ガッシュの分も弁当が用意されているとは思わなかったからだ。

公園に子供達の姿はなかった。人の行きかう姿も余りなく静かで、風もよく吹いていたので残暑の日々だというのに多少暑くても気にならなかった。
清麿とガッシュは木陰のベンチに座り、弁当を食べた。

「おいしいのだ!清麿の母上殿は優しくて素敵だのう」

ガッシュの素直な意見に同意した。本当にこんなに美味しい弁当は初めてだった。
口の中は切れていて食べ物が沁みて痛いし、顎がガクガクしてよく噛めなかったけれど、それでも。

どんなに清麿が不登校を続けようと、華は毎日キチンと食事を用意していた。お弁当もそうだ。
ガミガミ叱るのも本当に心配してくれていたからだと今は素直に思える。

視線に気づいて顔を上げると笑っているガッシュと目が合った。

「清麿とても嬉しそうなのだ。良かったのだ!」

そう言って笑うガッシュの髪が風に揺れて金色の光をはじくのをまぶしそうに目を細めて清麿は見ていた。
ガッシュの笑顔も輝いている。
まるで金色の太陽のようだと清麿は思った。







銀行強盗の部分はしょりました。私の話ではそこまでする必要を感じないので。
1ヵ月かからなくてよかった…。                     05 06 24