赤い魔本

ガッシュに対する疑問は尽きなかったが、最初の目的である誕生日パーティーの事は話をしてガッシュに家に来るように言った。
ガッシュも喜んで招待を受けると言って、プレゼントにまた魚を捕まえて来るからと服を脱ぎ始めようとするのを慌てて止めたりなどというひと騒動があったりもしたが、プレゼントならもう貰っているからとどうにか説得してガッシュを宥め、家まで連れて行った。
ガッシュにしてみたら何もプレゼントした覚えがないので、何をプレゼントしたのかと清麿に聞いてみるのだが、清麿ははぐらかすばかりで答えようとしない。
清麿にしてみれば素直に感謝の言葉を言うのが照れくさいだけなのだが、ガッシュには分からない。
清麿も家へ着くまでの間に連絡方法を聞きだそうとガッシュに質問するのだが
「メアドとは何だ?ケイタイとは何だ?」
と、逆に質問されるので困ってしまった。
いくらなんでも知らないわけはないだろう?と思うのだが一応説明して本当に知らないらしい事が分かったのでますます困ってしまった清麿だった。
一体どんなド田舎にいたんだ!?とは思いつつも、携帯電話やメアドを説明しているうちに家に着いてしまったので、質問は後回しになった。
家に着いてから鈴芽も招待しているのか?とガッシュに聞かれた清麿は、鈴芽も誘うつもりで電話してみたが留守だった事を話して、後で何かプレゼントをするつもりだと答えた。
それはいい考えだと華もガッシュも同意してくれたが、女の子が喜ぶようなものが清麿には検討がつかなくて困っていた。
華に言うとそれは私が相談に乗ると言い、鈴芽に会った時に好きなものは何かそれとなく聞いておくようにとも清麿に促した。
華と清麿とガッシュの3人で楽しく誕生日のお祝いをした。
ガッシュの食欲はすさまじく、多いと思われていた料理がすっかりテーブルから消えて無くなっていた。
ガッシュの身体ほどもあったあの大きな魚をたいらげてからそう時間は経っていないのに…と清麿の額に冷や汗が浮かんだが、2人が残さず食べた事で華の機嫌はとても良かった。
パーティーの後片付けを3人でした後、ご馳走様を言って早々に帰ろうとするガッシュを清麿はひき止めて部屋へ招いた。
ガッシュは困ってそわそわと落ち着きがなかったが、時間はそんなに取らせないからと清麿が言うので大人しく従う事にした。
清麿はガッシュがこれからどうするのかを聞きたかったのだ。
清麿の父親との約束は果たした事になるし、またイギリスに帰るのなら何処へ行くのかも聞いておきたかった。
だが、ガッシュの返事は曖昧で何処へ行くつもりなのかも、これからどうするのかもハッキリとした返事は返ってこなかった。
何か言いたくない事情があるのかもしれないと清麿は質問を変えて、どうして父親がガッシュの命の恩人になったのかを聞いてみた。
暫く考えてからガッシュは言いにくそうに言葉を紡いだ。
「お腹がとても減ってしまって…動けなくなったのだ。」
イギリスの森の中で迷子になり、食べ物にありつく事も出来ず、力尽きかけた時に清太郎に出会って助けられたのだと言う。
その答えに少し思考が停止した清麿だった。
(こいつ…極度の方向音痴なのか?…でも日本のオレの所までちゃんと来てるしなぁ…)
森に食べ物くらいあるはずだが、今日のガッシュの食欲からして普通の人が満足する量では足らなかったからかもしれないと思い直した。
それから清麿は一番聞きたかった質問をしてみた。
それはガッシュの泊まっている場所がどこかという事だった。だが、ガッシュの口から出てきたのはホテルの名前などではなく
「子供が沢山来るところ」「水が流れていて小さな魚が居るところ」「四角い石がいっぱい並んでいるところ」「大きな岩がゴロゴロしているところ」「海の近くの大きな家の屋根の下」
だった。まるでリドルなその答えに清麿は目が点になる。色々と考えた結果、
「野宿…してるのか?」という結論に達して声に出して聞いた。
クッションの上にキチンと正座したガッシュの首が縦に振られるのを見た清麿は座っていた椅子からずり落ちそうになった。
その時外で何かが爆発するような音がしてガッシュが勢いよく立ち上がると窓に駆け寄った。
清麿もそれにならってガッシュの隣に並び、音がした方向を見てみたが町の様子に変わった所は見つけられなかった。
「何だったんだろうな今の…?」
ふとガッシュを見ると、驚いたように目を見開いて不安そうにしている。
「…帰るのだ!清麿。今日はご馳走様なのだ!」
慌てて階段に行こうとするガッシュを清麿は追いかける。
「待てよ!ガッシュ!!どうしたんだ?」
ガッシュは答えない。
その騒ぎに華が台所から顔を出したので、ガッシュは簡単に華に礼を言って靴を履き始めた。
清麿が追いつく頃には玄関のドアを開けて外へと出て行こうとしている。
(何を慌ててる?何処へ行くのかもどうするのかも決めずに。泊まるところもないようなのに?)
焦る清麿は靴を履くのもそこそこにガッシュをひき止めるための言葉を捜した。
外へ飛び出したガッシュを追いかけて清麿は叫ぶ。
「オレと一緒に暮らさないか!!」
ガッシュはビックリして思わず足を止める。清麿を振り返ると清麿もビックリした顔をしていた。
とにかくひき止めようと焦っていたのであまり考えずに出た言葉だった。
丁度会社帰りの人や買い物帰りの主婦が何事かと2人を無遠慮にジロジロと眺めていく。
線の細いガッシュは女の子に見えなくもないので、スゴイ事を大声で言ったという事に気づいた清麿は首まで赤くなった。
「その…変な意味じゃなく…」
と誰に言い訳しているのか分からない言葉をモゴモゴと続けた。
ガッシュはそんな清麿を暫く眺めていたが、ニッコリ微笑むと
「今日は楽しかったのだ、清麿」
と言って走り去っていった。
「ガッシュ……」
清麿は暫くそこでガッシュの走り去った方向を見ていたが、溜め息をひとつ漏らして家に入った。
(嫌われたのかな?オレ……)
そう思うとますます気分は沈む。部屋に帰ってガッシュの態度や言葉を頭の中で繰り返して思い出してみたが答えは出なかった。
(何を急いでいたんだろう?ガッシュのやつ。あの音に関係あるのかな?
それに野宿してるなんて…。言えば泊めてやるのに。何で何も言わないんだ?)
ご飯ですら自分で海に捕りに行ってるようだし、なんだか旅行者というよりは彷徨う難民のような気がしてきた。
ガッシュを追いかけたいような…けれどしっかり断って出て行ったガッシュを追いかけて迷惑がられるのも悲しいしどうしたものかと思い悩む。
椅子に座り、机の上のパソコンの起動スイッチを押す。清麿はメールでも整理しながらもやもやした気持ちの整理もしたくなったのだった。
するとメールボックスに父、清太郎からのものが入っていた。日付は清麿の誕生日になっている。
開けてみると誕生日おめでとうから始まって大学での近況を知らせる内容だった。
華に着替えなど、送って欲しい物を伝え忘れたのでリストを送るから知らせて欲しいというのもあった。
なんとなく読んでいただけの清麿の頭にはあまり内容は入ってこなかったが、メールの中にガッシュという言葉を見つけてからは違った。食い入るように画面を見つめる。
「ガッシュは元気にしているだろうか?酷い怪我を負って森の中に倒れて居た時からは随分と回復したようだがあまり無理はしないように言ってくれ。」
メールにはガッシュを見つけた時の状況などは書かれていなかったが、怪我をしていたという内容が清麿を不安にさせた。
(怪我だって!?ガッシュはそんな事一言も言わなかったぞ!!)
ガッシュがウソを言ってた…?それは何故だ?
理由はスグに思い当たった。
清麿に心配させないため。そしてガッシュが何かの事件に巻き込まれている事を隠しておくためだ。
「迷惑かけたくないから」
昨日そう言っていたのを思い出す。それは清麿達を巻き込みたくないから一箇所に長く留まらないようにしていたのかもしれない。
ようやくガッシュの態度の意味する事が分かってもやもやとしていた気持ちに整理がついた。
清麿はガッシュを探すために家を飛び出した。
05 07 29
一人称の方が書きやすいかなぁ…う〜ん…。
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